2003/8/18

・大停電で拡大するリスクプレミアム
2年前のカルフォルニアといい今回の東部大停電といい、昨今のアメリカでは先進国とは呼べないような社会インフラの問題が目立つ。
このようなインフラの粗末さは、人々を慎重にさせ、そのことが景気に与えるマイナスの影響は無視できない。
エレベータや地下鉄に閉じ込められた人を除くと、一人一人のリスクプレミアムは小さくても、それを5千万人分足し合わせるとその影響は馬鹿にならない。

・萎縮する自信
前回のカルフォルニアや今回の東部の停電に関して、「行き過ぎた自由化」と「「中途半端な自由化」が原因との両意見がある。
決着にはかなりの時間がかかるかも知れないが、今回のような事件が近い将来再発したら、多くの人達のアメリカ社会に対する自信が揺らぐだろう。

統計上では米国経済は回復に向かっており、政府高官もそのことを人々に印象付けるのに必死。しかし、最近のCBSの世論調査では米国の6割以上の人達が景気は悪いと答えており、景気は良いと答えた38%を大きく上回っている。
これは、先週のレポートの「ハワイ、北カルフォルニア」で受けた印象と一致している。

・ドル安政策に追い込まれるブッシュ?
景気回復が思うように進まなかった際のオルタナティブが、ホワイトハウス筋にインタビューした結果、用意されていない。
仮に景気回復が進まない場合は、速効性のある政策、つまりドル安政策に走る可能性がある。

・介入金額9兆円の意味する危険性
ここで気になるのが、日本の為替介入が年初から7月末までで9兆円を超える史上最大規模になっている。
これは昨年一年分の日本の対米貿易黒字額を上回る規模。

公的部門(日銀)の介入がここまで巨額であることは、民間投資家がドル投資に極めて慎重なことの裏返しである。この介入がなければ、ドル円の為替水準はとんでもない円高になっていた可能性が高い。

このようななかで、スノー財務長官を含む米国高官が米国内の産業界に配慮した発言をした場合には、日本の介入は難しくなる。

・景気に明るい兆しも、財政による下支えは不可欠
景気が少し良く見えると政府が再び「景気は大丈夫だし、財政赤字は大きいから」という理由で財政にブレーキをかけてしまう危険性は重大な注意点。
これまで何回も景気は良く見えたことがあったが、そのたびに毎回、政府が財政にブレーキをかけてしまい、結果として今日までバランスシート不況を引き伸ばしてしまった。

・個別行以上の問題であることを理解していない金融庁
国内では金融庁から多くの銀行に対して業務改善命令が出たわけだか、
「もっと利益をあげろ」と当局が命令すれば、銀行の収益がすぐに上がるほど世の中は甘くない。

・景気回復が大前提の銀行の収益改善
今の日本のように、本来の銀行の融資先である企業部門が一斉にバランスシートの修復に回り、トータルでは銀行部門に対し資金供給者になっているような世界では、銀行の収益源は実質絶たれているようなもの。
今のような局面では、まず経済全体の回復を優先し、そこから企業の資金需要が出て、はじめて銀行の収益改善が図られるという順番のはず。

まして、「公的資金は早く返せ、返せ」と金融庁が公言した結果、BISや海外の金融当局を含む金融関係者から「そこまで返却が強く要求される資金は銀行の『資本』とは認められない。ということは邦銀はとんでもない過小資本だ」と言われたら、金融庁はどうするつもりなのか。

*縦割り行政と部分均衡しか見ない金融庁は、景気の回復にも金融システムの健全化にも実はマイナスになっている可能性さえある。金融庁には今の日本の金融が直面している課題が全体の問題なのか個別行の問題なのかという点をしっかりとみきわめてもらいたい。


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